第85章 恩知らずの飼い犬

川西拓海は目を上げて彼女を見た。表情は静かなのに、声だけが少し拗ねている。まるで意地を張る子どもみたいだった。

「用がなきゃ来ちゃだめか?」

水野佑奈は一瞬きょとんとして、それからふっと笑った。

退院したばかりだ。まだ体力も戻りきっていないし、気持ちが不安定なのだって無理はない。

彼女は深く考えなかった。ただ傷口の具合が悪くて、そのせいで少し機嫌までおかしいのだろうと思い、いつも通りの調子で彼に合わせる。

「来ていいに決まってるでしょ。ただ傷が心配なだけ。せっかくよくなってきたのに、また開いたら大変だもの」

水野佑奈は手を伸ばし、そっと彼の腕を支えた。

「疲れてない? 送ってい...

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